心理研究ノート

教育心理学系の院進学を目指す学部4年です。勉強のための研究ノートです。

タイム・ダラー・プログラム(Time Doller Program)

”地域力”というのを育てる概念「コミュニティ・ビルディング」を学ぶにあたって、

その事例として「タイム・ダラー・プログラム」という面白い取り組みがあったのでまとめます。

 

タイム・ダラー・プログラム(時間預託制度)

ソーシャルキャピタルの醸成を目的としたプログラム。

1980年代前半にアメリカの社会活動家であるエドガ一・カーン(EdgerCahn)によって考案された。
"No More Throw Away People" (この世の中に役に立たない人はいない)との理念を掲げて、地域で埋もれている人の能力を掘り起こし、コミュニティの再構築を行おうとしたものである。
基本的なタイムダラーのシステムは、システムに参加している人々が提供するサービスを時間で計り、そしてサービスを提供して貯められた時間を使用し、別の人からサービスを受けるという仕組み。

(泉留維. (2006). 日本における地域通貨の展開と今後の課題. 専修経済学論集, 40(3), 97-133.)

 

馴染みのあることばでいうと地域通貨ですかね。ただし、1単位あたりの価値は、現金が物質の希少性と需要によって規定されるのに対して、タイム・ダラー・マネーの場合は、すべて時間で決まるそうです。

住民同士で交換されるサービスは「家事・手伝い・介護・手紙の代筆・ペットの世話」など。いわゆる業者頼むまででもなけれども”ちょっと手伝って欲しい”いうことが交換されるみたいです。

 

そして私の研究テーマに近い児童福祉分野では、家族間のソーシャルキャピタルを醸成するモデルとしてカナダの「ファミリーリソースセンター」が行なっているタイム・ダラー・プログラムというものがあります。

 

このプログラムの下で、親や子どもは「教室」「チューター」「コミュティ・サービス」でボランティア活動を行うことによって「タイム・ダラー」(地域通貨)を得る。そして、その親や子どもは、それぞれの学校において生徒の父母によって展開・経営されるタイムダラー商店で「コンピューター」「学校での必需品」「自転車」などを購入することができる。なお、こうした商品は教会や企業などからの寄付によるものである。

(中村直樹. (2009). 児童家庭福祉実践におけるコミュニティ・ビルディングに関する基礎的研究--アメリカ児童家庭福祉実践におけるコミュニティ・ビルディングを例に. 東北福祉大学研究紀要, 33, 75-87.)

といったように、学校生活や子どもの学びにとって必要な物資をインセンティブにすることで、親や子はそのための地域通貨を稼ぐために、人との関係性をつくる機会に触れるという構造になっています。

 

--以下事例集--

アメリカ・ワシントンD.C.の事例

失業者や低所得者に対して食料を提供するシステム。

支援対象者は何かしらの労働をすることで、その対価として、地域通過(タイムダラー)が支払われる。

そしてこのタイムダラーを会員費として支払うと、地域内のフードバンクや地域内の食品流通企業から月4トンの食べ物を受け取ることができる。

支援対象者が無償で食料を受給し続けることの心理的負担を軽減することや、自活能力を育てることも考慮されている。

(成耆政. (2005). コミュニティ再構築における地域通貨運動の多様な可能性と課題. 岐阜女子大学紀要, 34, 9-20.)

 

アメリカ・メリルランド州ボルティモアーの事例

ワシントンD.Cの会員制タイムダラーの住宅貸付バージョン。

(成耆政. (2005). コミュニティ再構築における地域通貨運動の多様な可能性と課題. 岐阜女子大学紀要, 34, 9-20.)

 

日本の大学での事例「トポステンポ」

東北工業大学ピアサポート活動の一環で行われている学生間の相互扶助活動。

学生個人個人のできることとしてほしいことを「ピアポイント」という通貨で交換する。セルフプロデュースが苦手な学生の支援や、学生同士のコネクションをスムーズ

にするために、臨床心理士のコーディネーターが仲介する。

(Morita, K., & Kaminishi, H. (2012). The Improvement of the Face-to-face Communication Skills Using Time Dollar Method. Journal of JSEE, 60(1), 1_106-1_111.)

 

今は活動休止されているみたいですが、かつて日本にも「タイムダラーネットワークジャパン」という非営利団体があったみたいです。

運営休止している詳しい理由はわからないですが、日本で地域通貨がなかなか続かない一般的な理由と同じかもしれませんね。

デフレだったり、商品の提供元がなかなか安定しなかったり。